精神科医が「話を聞く」本当の理由とは?

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精神科医が「話を聞く」本当の理由とは? 患者さんの心に寄り添うということ

「精神科の治療は会話が大事」「医師は聞くことが重要」…よく耳にする言葉ですが、実際のところはどうなのでしょうか? 精神科医は何のために話を聞くのでしょうか? 今回は、少し踏み込んだ内容になりますが、一緒に考えていきましょう。

ある二人の患者さんの例

先日、こんなことがありました。

一人目の患者さんは、私のホームページやYouTube動画を見て、ご自身の症状を「〇〇病」だと確信されていました。 そして、ホームページで紹介していた治療方針を参考に、ご自身の過去のエピソードや治療方針に対する考えをまとめた長文メールを送信してきたのです。

実際に診察してみると、メールの内容に偽りはなく、患者さんの言うとおりで問題ありませんでした。 そこで、「おっしゃるとおりですね。その治療方針で進めましょう」と伝えたところ、診察はものの5分で終了。もちろん、世間話などを含めて30分ほどお話はしましたが、治療方針に関する話だけであれば、本当に5分で終わる内容でした。

二人目の患者さんも、同じようにホームページや動画を見て、長文メールを送信してきました。 しかし、この方は「この治療方針でいいのか不安だ」という内容だったのです。

そこで、私は「おっしゃる通り不安な気持ちも分かります。でも、まずはこの治療方針で進めていきましょう」と伝えました。 すると、意外なことに「いや、違うんです。先生は私のことを分かっていない」と反論されてしまったのです。

その後、30分ほどかけてじっくりとお話を伺い、最終的には納得していただき、治療方針が決まりました。

なぜこのような違いが生まれたのか?

この二人の患者さんの違いは、どこにあったのでしょうか?

一人目の患者さんは、普段から会社でプレゼンや営業などを行うビジネスパーソンでした。そのため、事前にしっかりと準備をしておけば、最終決定までスムーズに進むということに慣れていたのでしょう。

一方、二人目の患者さんは専業主婦の方で、そのような経験がありませんでした。 また、精神科については、私のホームページ以外にも様々な情報に触れており、「話を聞いてもらうことが重要」というイメージを持っていたようです。そのため、私のように結論を急ぐような診療スタイルに戸惑いを感じてしまったのかもしれません。

精神科医が話を聞く本当の理由

一般的に、精神科医は「患者さんの話を聞いて理解するために話を聞く」と思われているかもしれません。 しかし、実際のところは少し違います。

もちろん、患者さんの話を丁寧に伺うことは重要です。 しかし、医師は診察の最初の数分、あるいは数秒で、患者さんの抱える問題の本質や、どのような治療が適切なのかをある程度把握しています。

では、残りの時間は一体何をしているのでしょうか? それは、患者さんに「治療方針を受け入れてもらうため」の準備をしているのです。

患者さんの心に寄り添うということ

患者さんの中には、「話を聞いてもらうだけで楽になる」という方もいます。 しかし、多くの場合は、話を聞いてもらうだけでなく、医師からのアドバイスや具体的な解決策を求めているのではないでしょうか。

そのため、精神科医は、患者さんの話を聞きながら、

  • 患者さんの性格や置かれている状況
  • 言葉遣いや話し方
  • どんな言葉なら受け入れてもらえるのか

などを観察し、分析しています。

そして、患者さん一人ひとりに合った言葉を選び、治療方針を理解し、納得してもらえるように、コミュニケーションを取っているのです。

精神科医のアドバイスは本当に正しいのか?

「人生に正解はない」という言葉があるように、精神科医のアドバイスが必ずしも正しいとは限りません。

しかし、私たちは、これまで多くの患者さんと接する中で、

  • 精神的な苦痛から抜け出すために
  • より良い人生を送るために

どのような考え方や行動が必要なのかを、経験的に知っています。

そして、その知識や経験に基づいて、患者さんにとって最適なアドバイスをしようと心がけているのです。

まとめ

今回は、精神科医が「話を聞く」本当の理由についてお話しました。

精神科医は、ただ話を聞くだけでなく、患者さんの心に寄り添い、治療方針を受け入れてもらえるように、様々な工夫を凝らしています。

もし、精神的な悩みを抱えている方は、一人で抱え込まず、ぜひ信頼できる精神科医に相談してみてください。